宇陀 和佐又山(2)

 和佐又山(1) [奈良]


'11 11月13日(日)
ヨメがまた東北ボランティアにでかけてしまった。
長らく介護をしていたチチオヤが昨年末逝去し、その喪失感が新らしい対象に向かわせているとでもいうんだろうか。
会社を早退しその足で伊丹から飛行機に乗り、週末一杯岩手県で過ごし、有給を消化し、昼から出社ということを繰り返している。
常識的な言いかたをすれば、ゴクロウサマデスとでも言えばいいのかもしれないが、ヨメは一途に突っ走り、周囲の状況に気を使うことがないという、私からすればうらやましい類の天真爛漫性自己中的性格。
夫の意向や予定などを前もって調整するという根回しをする気はまったくない。やれやれ。
「ちょいと頻度が過ぎませんかねぇ?」と抗議すると「アナタはまたドイツにでも行ってきたら?」と。
そんな簡単なワケに行くかい!
 
しかたがない。
一人テントを積んでいつもの和佐又山に野宿をしにいく。
 
この前大台ケ原の向こうの三重県大台町の大杉谷森林キャンプ場も見学に行ったのだが、奥地の秘境といった地の利で誰もいなかったのはいいが、キャンプ場自体はファミリー向けで余計なつまらん遊戯施設も設置してあった。 
私は「大自然の中でアウトドアライフを楽しむ」風の休日を過ごしたいのではない。
人の気配のないところで「野宿」がしたいのだ。
それなら山奥に分け入れば幾らでもできるだろう、とは思うものの、別に命がけの難行をしたいわけではない。トイレや水回りの設備があって、イザというときには管理棟で電話もでき、物品も購入できるようでないと。
やはりレジャーの範囲内。セキュリティ面で気を使いたくはない。
 
11月13日(日)
本当は昨日土曜に行こうと思ってたのだが、寝過ごした(^^;
で、夕方ちゃんとした長めのタープポールを買いにスポーツ店に行くと、ワンタンチテント1人用が安かったので衝動買いしてしまった。いいのだ。ヨメは東北に行っているだ。
 
本当は今年はもっと大きめの前室のある本格的テント購入予定だったのだが、ヨメとは以降キャンプの機会がなく、どうも単独行の機会しかなさそうだ。
このテント、ワンタンチのくせに小さくてバイクのカバンに収まると踏んだ。
今、HPで調べてみると何と定価二万五千円!ええ!?
(クロスターhttp://www.croster.co.jp/outdoor2010/CR110902.html
正直に言うが、私の度量で衝動買いできる範囲は5000エンどまり。
それ以上だと最低一週間の熟考期が続くのだ。
それくらいの値段で手に入れたので、この定価にはびっくり。
うわぁ、大変な掘り出し物を見つけちゃったよ。よくぞ即決で衝動買いしたものだ。
 
なんとかバイクの後部常備カバンに収まった。
それに今までのより少しはデザインが面白い。
テントのワインレッドもバイクの色と合うようだ。
今回のテーマは一人用テントと165センチのちゃんとしたタープポールを投資したので、荷物の簡素化である。
前回まではコーナンで買ったランタンポール230センチ持参で便利だが、収納には長すぎる。
小さ目のテントをつみ、キャンピングチェアを積まず、ミニテーブルセットだけにする。
簡素化というよりはコンパクト化だけで、持っていく内容はほぼ前回と同じフル装備だが。
まあ、見かけは前回ほどは大げさではなくなった。 
R309で五条から天川村のみたらい渓谷トンネルを抜け行者還峠越え。
 
今では毎回通るいつもの道だが、キャンプする以前なら地の果てのような遠いルートだったのだ。
今年の春にもヨメと二台で通過した。春の山間の桜のピンクの混ざり具合が見事だった。
川迫ダムの白い川原で写真を撮っていたら、ヨメが一人で走り去り、私は置いてけぼりにされたこともあった。
 
行者還トンネル前に駐車場があるのだが今回地崩れで駐車できなくなっていた。
今あらためて確認してみると、このルートもつい一週間前まで通行止めだったようだ。
 
春にはここでヨメとコーヒーを休憩した。
一人で走っているとそういう回想の中を走ってしまう。
ヘタすると鬱すれすれに心がきしむ。
ヨメは私が死んで一人になれば、先導なしなのでもうバイクで出かけられないと言う。
逆にヨメがいなくなったとしたら、もう私はバイクに乗れないのかもな。どこに行っても回想のヨメがいちいちうるさい。

1時間少しかかってR309踏破。
169号に出、休日のドライブから飛ばして帰る車に混じり少し遠回りして道の駅吉野路169でお菓子を買い(^^;和佐又山に登る。5時ぎりぎりになってしまった。
登山道は幸いあまり災害の被害が無かったようで以前のまま。
山小屋のおばちゃんもいつもと同じ。
しかしキャンプ料金は少し値上り。整備協力金315エンナリが加算され945円ナリ。

「本日、どなたかキャンプしてらっしゃいますか?」「誰も。」
3回目にしてやっと一人きりになれた。そのためにわざわざ土曜を避けたということもある。
ここは和佐又山の中腹の高原で冬はスキー場になる。
山小屋から時々おばちゃんの犬の遠吠えが聞こえたりするが、人の気配がない清潔な広い原に一人で夜を過ごせるのだ。
広場と山と大台ケ原を望める一等地を占拠してレイアウトを考えていると、「ドコモ通じるようになってますよ」と背後から声。
オバちゃんが犬を連れて夕方の見回りに来ていた。
昨年、始めてキャンプしたとき、携帯電話通じるのかどうか尋ねたのだが、憶えていたのだろうか?
今年の6月にも来たので、私の赤バイクを見て思い出したのかもしれない。 
新しいテントは小型で細長いので、タープをそのまま前室に、という感じでテントの上から前に伸ばすときっちりサマになった。
新しいタープポールも丁度いい高さだった。
2,3忘れて来たものもある(菓子(^^)、予備のボンベ、雨具等)し、ランタンのマントルの張替えに手間取ったが、すっかり夜になり、一人きりで草原(くさはら)で過ごす愉悦がやってきた。
テント・タープの設置がうまく行き陣地が確保できた安心感がある。
 
なんと一人なのにチェアが三つもある。

一人だけの愉悦か。これはどういう心理だろうか?
前回は少々鬱気味だったので単に気分転換に来たのだが、今回はもっと心的な開放感がある。
野原でテントを設置し、飯盒でご飯を焚き、お茶を沸かし、ランタンを調整したりして過ごしていると、子供が野原で遊んでいるがごとく無心になっていけるようだ。

おとなが野原で遊んでいるのだ。
人や怪異の気配さえない清潔そのものの荒野で。
 
夜ペットボトルに入れて持ってきた安ワインを飲み干して勢いで眠る。
しかし、これは失敗し、酔いが覚めると目も醒めてしまう。
日頃ヨーロッパ時間と称し、朝方までガサガサしている習慣なので、そんなに急い修正できるワケがない。
それでは、夜明けまで起きていればいいのだが、流石にテレビも何も無い暗い野原では寝るしか他にやることはない。

和佐又山(1)  和佐又山(2) [奈良] 高取城趾
'11 11月14日(月)

朝、快晴だった。
いつの間に眠ったのか、近くを通る登山者の声で目が覚める。
キャンプ場は無人だが、下の山小屋に泊り朝から登山する人はいたようだ。
 
あたたかい陽射しがあり、朝の朝食をゆるゆる支度する。
テントの向きを大台ケ原が見える方向にしたのだが、もやっていてよく見えない。
逆向きにして原と上の和佐又山、大普賢岳を望む方が良かったか?
しかし、どれがどの山か実は知らない。
もうそろそろ和佐又山頂上に登山してもいいのだがな・・
 
と、思いつつなんということか快晴の原で朝寝をきめこむ。
朝から未踏の林道、上北山ー洞川線を試すことも考えてたのだが、別に急ぐこともない。
朝はぽかぽかと暖かいのでよく眠れる。
このテント、インナーテント部は総メッシュ地で通気性は抜群のようだ。
しかし、夜は寒かった。
 
お昼も昨夜の飯盒の飯とカップーヌードルで済ませ、相変わらず一人野原で遊んでいるのだ。
少しキャンプ場上方の登山道を登って見る。
本当の登山口風の広場に歌碑が三つ。
古来から大峰山系の修験道がさかんだった地で、多くの行者がこの山に篭って修行していた。
西行や円空の歌も。
 
日蔵上人: 寂莫のこけのいはとのしづけきに 涙の雨のふらぬ日ぞなき
 
独りになって自分の心の弱さと強さを見つめるために先人達はこの山に篭りにきたのである。
まあ、私がこの野にやってくるのも似たようなものだ。(一緒にするな、喝!)
ゆくっり野原で独りで遊べた自足感があり、いいキャンプだった。
 
東北のヨメは晩秋のアチラの風景を言ってくる。
奈良県は常緑の植林杉が多いのであまり色鮮やかではないが、東北の秋はさまざまな色で見事で鮮やかであるらしい。
確かに、言われてみればこの辺の紅葉はなんだか色がすすけているような気もするか。
R169で直線的帰路をたどるが、暖かいので懸案の川上ー洞川林道も試そうともう一度思う。
しかし、その前に逆方向の東吉野に抜ける林道にそそられてしまった。
 
「通行止」の表示があるが無視して通過、しばらくいくと作業服の二人道路脇で補修調査のようなことをしている。
東吉野に抜けられるのか訊ねる。
「さあ、しかしやめといた方がいいですよ」
往路でみたR309の駐車場の崩落現場を思い出す。
おとなしく元のR169に引き返す。
 
ところが、道の駅「川上杉の湯」手前で時ならぬ大渋滞中。
知らなかったのだが、R169は道の駅のすぐ近くで崩落通行止め、車は対岸の迂回路に誘導されている。
左手の建物が「杉の湯」と道の駅。斜面の大きな崩落でR169が完全に切り落とされている。
 
対岸にも道路があり、うまく迂回できるのでよかったのだが、そうでなければもう一度大回りしてR309を戻るか、下北山から三重・和歌山側に出るかするところだった。
まあ、テント持参なのでどこでも泊まれるというものなんだが。

 

origin: [和佐又山キャンプ(単)] 2011/11/15(火) 午後 4:27
宇陀 高取城趾