カタカナ語 欧米人呼称法
[日本語・外国語]

名前のローマ字表記

1999/5/7

  ”Ichiro SUZUKI” のように名-姓順で書く

日本人名をローマ字表記にするとき習慣的に「名-姓」の順で表記していたが、これを改め「姓-名」の順で表記したいとの国語審議会の提案があったという。(朝日新聞天声人語 2000/6/10付)
確かに子供の頃ローマ字で名を書くとき Ichiro SUZUKI というように姓名をひっくり返すような書き方をしていた覚えがある。
いまでは恥ずかしくてとてもそんなことはできない。
別に欧米人に見せるためだけにローマ字表記を使用している訳ではないし、また欧米人に示すにしても別に"SUZUKI Ichiro"と日本式順序で表記しても一向にかまわないのである。
ローマ字表記姓名の習慣的語順「名-姓」に関して、上記天声人語氏は『欧米が自国流の「名−姓」を押しつけたのではなく、こちらが申し出た形である。』と書いている。
つまり、要求されてもいないのに親切めかして行われる過剰サービスですね。あなたはわたしの国の習慣は何も知らないでしょうから、あなたの国の習慣にあわせて自分の名前をアレンジして書いてあげましょう、という訳だ。
そのくせ別に日本在住の欧米人が「クリントン・ビル」風に日本の習慣に合わせて語順を変えることは期待してないようである。
だから過剰サービスという以外にはないんだけど。でも、それだけではないと思う。
昭和30年代にフランク永井という歌手がいた。別に在日2世であったわけではなく、単なる芸名である。これが「名-姓」風芸名のはしりだと思われる。
この芸名の由来はよくは知らないけど、もちろんインターナショナルな歌手を目指したというわけではなかろう。
このカタカナ交じりの「名-姓」順芸名に対し、なんとなく「バタ臭い、ハイカラな、イキな、都会風な」というような感じをうけたのが当時の一般的感性ではなかったか。
高度経済成長期前の一般日本人が「名-姓」順のローマ字表記で自分の名前を綴ったとして、彼等がすべて欧米人に実際に会って自己紹介する時のことなんて考えていたとは思えないのだ。
ローマ字で、そして「名-姓」順表記をすることで何となく自分が欧米人風になったようで「かっこいい」と感じた人が多かったというのが真相ではないかと思う。
私の場合、数年にわたるヨーロッパ滞在中も含み、もう20年来「姓-名」の順で表記しているが別に不都合はないし、もしどこかで不都合があったとしても「名-姓」表記する気恥ずかしさには耐えられない。それどころか、最近では他人サマが Seiji OZAWAとか表記されているのを見ただけで他人事ながら気恥ずかしくなってしまう過剰羞恥心も出てきてしまった。

やめなよ、それ、「名-姓」順にしても別にかっこよくともなんともないよ。
もちろん、欧米人とのコミュニケーション中や、英文中で姓と名を明示するためならアリですよ。
(00.6.12)
 
(追記)
(2000.9/8付毎日新聞より引用)----------
 今後の国語施策のあり方を検討している文相の諮問機関「国語審議会」は8日、総会を開き、日本人の姓名のローマ字表記を「姓―名」の順にすることが望ましいとする委員会案を公表した。これまでの慣行では、欧米人と同じ「名―姓」表記が一般的だが、文化の多様性を考えた場合「日本の形式」で通すことがよいとしており、今後議論を呼びそうだ。
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日本人がどうして名・姓というバタ臭いローマ字での署名順序を採用したかについては単に鹿鳴館的盲目的西欧追従がなせるワザと思っていた。
最近、すこし違った理由もあるような気がしてきた。

日本人の場合、中国人、朝鮮人のケースと比べて姓に対する執着がそんなにないのではないか、というのも理由のひとつだと思える。そういえばこの2国は夫婦別姓が一般的な国である。

江戸時代以前には人口の大多数は姓を持たなかったし、苗字持ちも「木下・羽柴・豊臣」風に簡単に姓を変えていたようである。
山田とか横山とか聞くと、明治になって急に苗字を名乗れといわれたとき、かなりいいかげんにでっちあげたような印象がある。山に田んぼというのはかなり一般的な日本の光景ではないだろうか。
「苗字なんて何でもいいよ、めんどくさいから山田にしとこう。」くらいのノリを感じてしまう。
名前だって長男だから「一男」でいいじゃんという軽いノリ。
そういえば昔「山田一男」さんという指揮者がいたっけ。え?今も居る?すんません。

中国や朝鮮では姓は出自を示す重要な個人指標であった。
韓国には本貫同姓(同じ出身地の同姓者)同士は結婚できないというような慣習があって時として悲恋非劇を生んだという話もよく聞いた。
日本ではそれほど出自にはこだわらなかったということになるのかな? だから別に欧米風に「名ー姓」だってかまわんのでは?という気分があったような。

それにしても、いつ誰がローマ字表記の署名で「名・姓」方式をはじめたのだろう。
初めて欧米との外交文書に署名した明治の日本外交官がローマ字でどのように署名していたんだろう。
ひょっとすると誰が最初にこの尻の軽い「名ー姓」署名を始めたのか特定できるかもしれない。

(00.9.20)  

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