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詩人の恋(ハイネ/シューマン)![]() |
[ピアノのお稽古] |
夏休みの自由研究「装飾的経過句」 |
2014/8/20(水) 午前 1:23 |
この春に集中してシューマンのクライスレリアーナと幻想曲を暗譜してから、未だ新曲にとりかかる気力はない。
毎日の「ピアノのお稽古」としては嘗て暗譜したレパートリーを確認し再暗譜してるような感じ。
私の技量ではきっちり暗譜し奏法も完璧、というわけでもちろんなく、素っ飛ばしていた技術的にややこしいところをもう一度再挑戦し、少しは上手くなった気になって楽しんでいるわけだ。
素っ飛ばしていた部分は圧倒的に装飾的経過句 passage decoratif が多い。
小さい音符で標記された、リズム・拍子に関係なく指をちらちらさせる、何とも気障で鼻持ちならない、高慢で腹も立つ圧倒的にいやらしー部分である。
もちろん素人ピアニストにはくやしくも手も出ない高値の技術たが、最近やってみると意外とサマになってきた。
何となくプロのピアニストになったような高慢で特権的な気分になれる。
こうなると病みつき状態で、気が付くと夏休みの自由研究「経過的装飾句」風にそっちにハマってしまっていた。
ショパン「ノクターン 変ニ長調」op.27 第三再現部
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ここの↑ちっこい音符どもがソレ。ここだけ突出して難しい。
コレってジャズで言うアドリブだが、クラシックな音楽では作曲者自らが書く。
ショパンはこんな風に演奏してたんだなぁ、と当時のサロンの好みが分かるような華麗な装飾。
技術の誇示以外にあまり大きな意味はないが、演奏という場では大きな見せ場になる。
まあいえば、京劇・歌舞伎で演者が大きく見栄を切り、やんやの拍手頂戴という場面。
ベルリンフィルの6月定期でピアニストとしてのバレンボイムがブラームスの協奏曲を弾き、アンコールで一人このショパンのノクターンを弾いた。
圧倒的なスローテンポで小気味いいくらいに押さえ切った悠々たる演奏。
ベルリンフィルのメンバー、指揮のラトルも舞台上で聞き耳を立てている中だぜ?よく平気で自分に没入できるもんだ。
私にこの貫禄が少しでもあれば(^^;
さて問題の譜例の経過句の場面。
さぞ思いいれたっぷりに、ゆっくりめで出て次第にテンポを上昇させ、これでもかと高揚させてしまうものと思っていたら、静かにサラリと目立たないように弾き飛ばされてしまった。
うむ、憎たらしいなぁ!
ショパン「ノクターン 嬰ヘ長調 op.15の2」テーマ再現部
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この装飾音型の指使いも極端に難しい。
単に半音階下降のコードをバラしただけなんだが、1-5のトリルでは弾けないのがミソ。こんなに素早い指の交換を考えて実行する程人間の脳の処理速度は速くない。この部分だけ100回、自らを機械に変えて自動処理するのみ。
ショパン「ノクターン ロ長調 op.62の1」提示部のコーダ
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単なる音階的パッセージだが、音楽的には非常に重要な激情の表現になっていて異例。小さい音符で書かれているが、これはもはや装飾ではない。
この最後のD#mol コードへの収め方。
この間の取り方こそ歌舞伎の見栄そのもの。
同上 再現部開始部分
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経過音としてはそう難しくはないのだが、ココはソレではなくてメロディを何と全トリル付きで唄わそうという、いやはやの部分。演歌の泣き節というか(^^;
下段の1小節目では当初小音符で記載した同じ音型を、今度は2回正規のリズム内の64分音符で繰り返させている。
もちろんトリルや小音符はそれよりも細かく演奏される必要がある。
これぞ hemidemisemi-half-quaver、私がのたうち回っている姿。
こういう装飾的経過句となるとリストに出てもらわねば話にならない。
リスト「愛の夢 Nr.3」第一部コーダ
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最後の2和音の目にもとまらぬ執拗な繰り返し!
これぞ十八世紀ドイツロマン派の真骨頂。
同上 再現部前の大見栄
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確かに。
実際のサロンで長髪高鼻碧眼美男子のリストがこれを決めると、さぞ失神者が続出したことだろう。
今では完全に時代に封印され、そんな世界があったとは誰も覚えていない昔の話。
ただ音楽の中だけにホルマリン漬けで保存され、一様に無彩色なこの世に息詰まったとき、密に夜彷徨い出、狂おしい時代の狂気の匂いを嗅ぐためだけに。
意外と商才に長けたリストではそこまでは行くわけないが。
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