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そこまでしてはいかんのではないか?サーチュイン遺伝子 |
2011/06/15 |
秦王政は中国を統一し始皇帝と名乗る。
地上の絶対統治権を得た政は、次に徐福に船団を与え、「不老不死」の妙薬の探索に出す。
しかし、徐福の船団は消え、戻ることは無かった。
もし、徐福が戻り、こう復命したら始皇帝はどうしたろうか?
「不老不死の妙薬はありませんでした。
しかし、不死の妙薬だけなら手に入れました。」
せっかくだから「不死の妙薬」を試しただろう。
そして、わずか15年で自分の打ちたてた帝国が滅びるのを見るが、そのうち目も見えなくなり、歩くこともおぼつかなくなる。老いは確実に進んでいくのだが、通常の到達点である死に至ることはない。
殆ど生きている痕跡もない干からびた肉体の絶対の老いに閉じ込められたまま、未だに死ねない自分を永遠に呪い続けていくことになる。
※実際に始皇帝は方士が調合する怪しげな薬(おそらく水銀系)を服用して死んだという。
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6月12日放映されたNHKスペシャル「あなたの寿命は延ばせる 発見!長寿遺伝子」を見ていて、私がヨメに毎夜語って聞かせる上記ウソ八百一夜物語シリーズの一話を思い出した。
サーチュイン遺伝子というものがあり、普段は休眠しているのだが、ある条件で活性化すると肉体のあらゆる老化を阻止する働きをする。
この条件とは食料不足による飢餓状態が続くことである、という。
どうやら「不老の妙薬」を発見したと言いたいような番組だった。
そして「家族の為に、できるだけ長生きしてあげたい。」といういう一見健全そうな希望を持つ志願者に人体実験を施し、実際にサーチュイン遺伝子が活性化されたのを測定する、ということまでヤラせている。
人体実験の要領は、個人の一日の基礎代謝量を割り出し、その70パーセントのカロリー分しか食物を食べさせない、というものだ。
私も「不老の妙薬」には興味なくもない。
「不死」には抵抗があるのだが、「不老」っていいんじゃないか?
しかし、ゆっくり考えてみればこの番組はどうもおかしい。
○老化の原因が(1)ミトコンドリアの減少 (2)血中コレステロールの堆積による血管壁の肥大 である、としていること。
→他にもイロイロあるだろう。細胞分裂時の遺伝子コピーエラーによる不確定部分の増加とか、雑多な病によるダメージの蓄積とか。
これは逆にサーチュイン遺伝子の守備範囲のものだけを選択的に老化の原因として挙げるという、センセーショナルな結論へ導くための安直な演出ではないか。つまりヤラセ。
○サーチュイン遺伝子活性化による副作用への言及が一切ないこと。
→この万能薬へのテレビショッピング番組なみの手放しの賛美だけ。
NHKでしょ?自称「公共放送」がそんな作為的でセンセーショナルな演出をしていいの?
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しかし、この遺伝子の解説中には根本的に解せぬところがある。
そんなに万能な「いいことづくめ」の遺伝子なのに、通常は活性化させられることはなく埋もれたまま個体の死まで持ち越すという。
いうなれば、この遺伝子を持つ生物は、潜在的には肉体ヒーリング能力・アンチ・エイジング力を持っているくせに、大部分の個体はこの力を行使することなく一生を終わる。
これは非常に奇妙な話だ。
お金があるのに、使わずに餓死するようなものである。
いや、個体はこのお金があることすら知らない。
ただ偶然条件が整ったときだけ、気がつけば突然お金がポケットに入っているのだ。
私が生物を設計したワケではないので、どんな意図でこのような奇妙な遺伝子を混ぜてあるのかわからない。
しかし、私の設計ではないにしろ、全ての遺伝子には明確な合目的性があると思っていた。
各器官が老朽化してきたとき、自衛のためその伝家の宝刀を抜いて老いと戦い、死を少しでも遠ざける、というのなら別に疑問はないのだが。
この根本的な遺伝子の存在理由について、NHKの番組では一切の説明はなかった。
私は「テレビが言ってるから」と、納得できないものを信じるにはあまりに人が悪い。
さらに言えば「テレビが言ってるから」ウソだろう、と思いさえする。
しかしNHKなら、というかすかな信頼はあることはあった。
「食事制限を続ければ長生きできることが科学的に立証された」と聞けば喜ぶのは厚生労働省のメタボ対策担当部署である。
私はこの番組は大掛かりなヤラせであり、厚生労働省とNHKが仕組んだのではないかとも疑ってしまった。
しかし、番組では食事制限せずとも「レスペラトール」という物質を服用すれば同様のサーチュイン遺伝子活性化効果があるとも紹介されていた。
ちなみに、レスペラトールでネットを検索すれば:
「レスペラトールたっぷり・日2粒でOK!62粒1680円!」 www.kefran.com 等がぞろぞろ。
この遺伝子の意味も分からないのに、よくもまあそんなモン服用しますねぇ・・・
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もう少しネットで調べる。
どうやらこの遺伝子の存在理由はこういうことらしい。
生存環境が悪化し、食物が少なくなった状態が続くとこの遺伝子のスイッチが入る。
このとき、この生物は生殖し子孫を残すという手法を捨て、自分の個体をできるかぎり存続させることで、とにかく種としての存続を図るらしい。
つまり新たに新世代をつくり一から育てるより、現に生きている自分が存続する方が、種として支払う食物エネルギーコストが安くつくのである。
うむ。まあ、そのような緊急避難的な役割があるのならサーチュイン遺伝子の存在を納得してもいい。
しかし、待て。
だからといって、個体が自分勝手にサーチュイン遺伝子を活性化してもいいのかい?
これはあくまで緊急避難的に種の存続を図るために使用する手段だから、個人が種族の非常時でも無い時に勝手に使用してはアカンだろうが!
緊急の病気でもないのに、タクシー代を節約するためにやたら救急車を呼ぶやからが増えていると聞く。
しかし、このコスト、というかツケは後に種全体が支払うことになるハズだ。
こういう遺伝子が存在するということは、本来的にはヒトは120歳くらいは生きていられるような部品で作られていると言える。
しかし、通常は次世代に生存エネルギーを譲るため、早めに交換するように、つまり適正賞味期間が過ぎれば順次廃棄していくようにデザインされているのである。
まあ、120年間食べられないこともないのだが、わざわざ普通はそんなマズいものを食う必要はない。
新しいものが沢山あるのに、どうしてそんなモン食べにゃいかんのだ。
60年以上経って古くなったら、どんどんゴミ箱に捨てていって場所空けないと冷蔵庫が溢れてしまう。
役割を終えた個体は速やかに自発的に後進に道を譲れるように設計してあるのだ。
(個体としてのアポトーシスという考え方)
そういう設計者の意図があり、餓鬼に見つからないように隠していたのに、偶然生化学者がその秘密の玉手箱を発見してしまったのである。
更にけしからんことに、この生化学者2名は製品化を図るため、それぞれ自分で製薬会社を設立したそうだ。
神を畏れよ!
と、いいたいところだが、神もどこかにバカンスに行って未だ帰ってこない現代の行動様式としては当然の正統な経済活動で、別に非難するべき根拠(モラルか)はないのだが。
まあ、地球温暖化論議と同レベルだね。
私腹を肥やす多少の後ろめたさを 人類全体のため、とかいう大義名分をデッチあげて隠蔽してしまうのだ。
しかし、私個人のレベルで言えば、こういう人達が居るからとかくこの世は住みにくい。
食事制限をして人工的にサーチュインを活性化させようとする人やレスペラトール製剤サプリメントを買って服用する人は、ありていに言えば次のように表明していることになる:
「自分の寿命さえ伸びれば、別に次世代の顰蹙を買おうが、種全体が滅びようが知ったことじゃないやい。」
自分は排他的生存に値する優秀な個体である、との過剰な自信では始皇帝なみですねぇ。
まあ、そこまでの明確な人類一般に対する悪意はないにしても、結果的にはこの遺伝子の設計者の「種全体のことを考える」という意図を捻じ曲げているのは明白だ。
NHK番組で人体実験を志願した人の半数の動機は「子供のためにできるだけ長生きしてあげたい」というものだった。
この人の素朴な善意を私は疑わないが、その理窟はまったくの個人の一方的な恣意の押し付けである。
「子供のため」とおっしゃってますが、それって明らかに「自分のため」ですよ。
こういう盲目的家族愛をむやみに行使する人が増えているので、「親離れ」できていないふやけた世代がはびこってきているのだ、と私は言わせていただく。
「私が居なければこの子がかわいそう」というのは根拠ある理論ではなくて、自分の感情の正当化にしかすぎない。「親はなくとも子は育つ」のだ。
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まあ、「老化したくない」という、ごく一般的な願望にまで「人類全体に対する背信行為である」と私は糾弾するつもりはない。
ここで重要なことは、サーチュインが始皇帝サマご用達の「不老の妙薬」レベルに達していないということだ。
この遺伝子は「不老」を実現するのではない。
あくまで「老化を阻止する方向に働く」だけで、老化そのものは進んでいくのである。
NHK番組では通常150パーセントくらいの寿命の延びが期待されるということだ。
つまりですね。120歳くらいまでは老衰死を引き伸ばせるらしい。
昨年逝去した義父は84歳だった。
60歳で老化がはじまり、70で自立できなくなり家に閉じこもりがちになり、80からは介護者の手をわずらわせ、最後の一年は寝たきりだったと簡単にモデル化しておこう。
実はその義父がテレビで見て「レスペラトール」をテレビショッピングで手に入れ服用しだしたとしよう。
60で老化がはじまってから80まで物忘れがひどくなり毎日ぶつぶつ周囲に文句をタレる日が20年続く。
100までの20年間はよぼよぼで自立できず、テレビを大きな音で鳴らすだけの生活。
120で亡くなるまで介護生活を20年つづけ、最後は完全寝たきりの朦朧とした人生が数年も続くのだ。
「子供のため」には、やはりなんとしてでも生きてるほうがいいんですかね。
寿命が1.5倍になるということは、それほどイヤがっている老化・老人期間がその分増えるということなんだが。
ま、他人の人生だ。それで良ければ勝手にやってくれ。
と、言いたいところだが、少なくともその分だけ老人人口が増える。
これは50年後の気温が1・2度上昇するとかの与太話とは違い、真に切実な人類の生存環境への脅威になるだろう。
blog upload: 2011/6/15(水) 午前 8:10
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