[読書控 1993 index]


〔読書控〕 1993/04

筒井康隆「最後の伝令」

いいではないか。書く事を遊ぶ。人が驚く。この人も死ぬ事を
意識する年になった。
尿意を堪える描写。喉がからからになる性の生理。ここまで書
けるんだ。


〔読書控〕 1993/04

辻邦生「天使の鼓笛隊」

あんまり感心しなかった。子供向け=人生教訓 PETIT PRINCE


〔読書控〕 1993/04

司馬遼太郎「オランダ紀行」

なかなか。オランダに対する好意があふれていてうれしい遼太
郎節。


〔読書控〕 1993/04

塩野七生「イタリア遺聞」

いいな。普通の人の視点。納得できる感覚。ヨーロッパの感覚。


〔読書控〕 1993/04

宮本輝「愉楽の園」

タイが舞台の通俗的恋愛物語。話が乱暴。


〔読書控〕 1993/04

スティーヴン・マーロウ「秘録 コロンブス手稿」

なかなか愉快に読める。才気に飛んだ小気味のいい書きっふり。


〔読書控〕 1993/04

村上春樹「遠い太鼓」

この人は同い年だったんだ。40になることを書いている。40になることと、外国で暮らす事を書いている。なかなか面白い文章だった。うん。まあ。このくらい書ければ書く事が面白いという事になろう。例のノルウエーの森読んだはずだけど覚えていない。とにかく村上龍君の毒の方が面白いので。そういえば宮本照なんてのも同じ世代だけど、この人にも毒が無いのでもう読まない。死ねば誰も読まなくなる作家。村上龍は残る。
しかし、春樹さんもエッセイは面白い。このくらいこちトラにも書けるよ的文体だけど、こう思わせるのが実は芸だったりして。あんまり世代としての感覚が似ているので読んでもしかたが無いとは思うもののやっぱり面白い。どうしても文章に軽いユーモアをまぶしてしまう世代。冗談が主たる日常のコミュニケーションである世代。テレビ世代。アメリカ感覚世代。
こうして書いているのをみていると、猛然とばかり当方も書きたくなる。
芸風さわやか。人生くすぐり派。


〔読書控〕 1993/05

堺屋太一「巨いなる企て」

石田三成の画策に焦点。関西弁がなかなか新鮮。
まあ、作者がいう現在の企業経営とのアナロジーはつけたしであるが、なかなか面白い視点。
政治工作か。
最近のわが身を思うにつけ当方の政治力の無さにしっかりと思い当たる。
人との関りが煩わしいと思っている人には無縁な世界。
まあ、無縁な世界。虚名欲はあるが、それよりもそっとしておいて欲しい。
間違えてのこのこと出てきてしまったこの世界、か。


〔読書控〕 1993/05

堀田善衛「ミシェル城館の人」

(1)騒乱の時代 (2)自然 理性 運命
久しぶりの堀田善衛さん。全集を昔買ったけど・・・思い出すのは悲しい。
まあ、どうもあまり乗らなかった。
雑誌連載ということでなんとなくまとまりに欠く。16世紀フランス王侯貴族の生態が面白い。
「中世人の行動を現在の感覚から理解してはいけない。」
つい400年前の人間というのは既に感覚がそんなにも遠い。
ホイジンガの中世の秋風の読み方。


〔読書控〕 1993/05

森雅裕「100°Cクリスマス」

これは「モーツアルトは子守り歌を歌わない」「ベートーベンな憂鬱」を書いた作者なのかな。全然作風が違う。ま、別に。


〔読書控〕 1993/06

司馬遼太郎「木曜島の夜会」

物知りになる司馬遼太郎の小説。今回はオーストラリア木曜島の日本人潜水夫の歴史と吉田松陰の一齣    幕末の時代の狂騒。時代が狂をうむ。何かに取付かれた時代。憑依の時。


〔読書控〕 1993/06

戸川としお「近衛秀麿」

政治に熱中した時代。政治が遊ばれた時代。戦争。政治の貧困。


〔読書控〕 1993/06

大江健三郎「僕が本当に若かった頃」

作家。リアルタイム大江家私小説。文体が少し変わった。高校生のような連体止め。
それにしてもこの人も60近いのにこの内面分析明示癖。
やっぱり面白い大江健三郎
自分のスタイルを持つと書く事が明示する事になる。
大江健三郎の小説。書く事の誘惑。


〔読書控〕 1993/06

大江健三郎「静かな生活」

何という私小説。作家とうものはこういう題材でも小説が書ける。
何だかどういえばいいのか解らんが、、、面白かった。


〔読書控〕 1993/06

横田正平「玉砕しなかった兵士の手記」

軍隊生活で本当に辛いのは集団生活という風に当方は思う。
しかし案外それはそれでその場の風にあわせておけばやりすぎるもののようだ。
いすれにしてもただの兵士にとって戦争の意義なんてどうでも良い。早く終わらぬかと思っているだけの兵士が大部分だったんだろう。


〔読書控〕 1993/06

辺見庸「自動起床装置」ほか

大江健三郎の「死者の奢り」風の亜流。別に見るべきものなし。一昨年の芥川賞授賞作らしいが。


〔読書控〕 1993/06

カズオ・イシグロ「日の名残り」土屋政雄訳

もちろん覗き見的興味で読み始めたわけであるが、どうしてどうして。
小説を読む楽しみがあった。こなれた作風。楽しみとしての読書。イギリス風読書か。
作家とはこういう作風の人をいう。


〔読書控〕 1993/06

萩野アンナ「背負い水」他

才気があるのか何かよく解らんが、現代軽薄調でのエッセイ小説はもう受け付けない。同じ軽薄調でも筒井康隆並みの毒があればいいのに。コレが芥川賞とはね。


〔読書控〕 1993/06

アル アレツハウザー「ザ・ハウス・オブ・ノムラ」佐高信(訳)新潮社 1991

猛烈社員の時代の神話。やっかみと反発。


〔読書控〕 1993/06

遠藤周作「心の砂時計」

まともな事をいっている。まともな事をわざわざいわねばならない現在の時。


〔読書控〕 1993/06

安野光雅「空想書房」

旅の絵本のきっかけは飛行機からみたアンカレッジ近辺の光景であったそう。
風景とも呼べぬ奇怪な光景から一本の道を見つける回帰。
ヨーロッパへの憧れが充満している安野さんの話しはさておき、アンカレッジ近辺の光景が記憶をつつく。
ジェット機から見た地上は距離も高度もはっきりしない。只厳しい山岳と激しく黒い緑が雪の下の世界のすべてだった。こちとらはのうのうと空の上から高みの見物をしているだけなのだが、ふと、魔がさして地上にわが身をおいて見る。孤独というほどの人間味もない。一人の人間が死のうと生きようとソコでは何も始らない。
只圧倒的な自然の量であった。空と地と。時と空間と。
日本で生きているのが、嘘くさい。


〔読書控〕 1993/07

吉村昭「白い航跡」

なんか読んだなと思ったら2回目だった。明治期の海軍医高木寛某の出世物語。素材の面白さだけ。ちょっと歴史的記述がうるさい。「フォンシーボルトの娘」が一番良かった。


〔読書控〕 1993/07

村上龍「エクスタシー」

また山盛りの毒をごちそうしてもらった。いいなあ。


〔読書控〕 1993/8

隆慶一郎「見知らぬ海へ」

向井正綱(徳川氏船奉行)英雄譚
爽快
三浦案針が出て来るところで中断(未完)


〔読書控〕 1993/8

連城三紀彦「黄昏のベルリン」

ヒトラーの息子が日本人という設定。B級サスペンスだけどなかなかうまいプロットで読ませた。文章はこなれていない。


〔読書控〕 1993/8

志鳥栄八郎「音楽の旅 味の旅」

スモン病の音楽評論家の世界旅行記
深みはない記述
*当方の旅行は下調べがまったくなかったな。もう一度一ヶ月でいいからヨーロッパ彷徨したいもの。


〔読書控〕 1993/8

ウンベルト・エーコ「フーコーの振り子」(上下)

訳)藤村昌昭
バラより面白い
すばらしい訳業。訳者に手紙を出したいくらい。


〔読書控〕 1993/8

神坂次郎「おかしな大名たち」

中世人の感情生活・ホイジンガ中世の秋の記述を思い出す。松永弾承が現在人の個人主義的感覚の体現者というのが面白かった。


〔読書控〕 1993/8

羽太雄平「竜の見た夢」

B級大衆小説。歴史的人物の虚を面白くプロット化。


〔読書控〕 1993/9

カズオ・イシグロ「女達の遠い夏」

前回読んだ召し使いの話しがなかなか良かったのだけど、この作では当方のリズムとあわない。今回は敬遠。 "


〔読書控〕 1993/9

宮沢明子「ピアニストの自画像」

乱暴な文章・天衣無縫・日本はね。


〔読書控〕 1993/9

堺屋太一「豊富秀長」(上下)

秀長の伝記としては唯一の本。このまえTVで著者が補佐役に徹した秀長をもちあげていた。なるほど。もはや第一人者になれない当方としては見につまされること多し。


〔読書控〕 1993/9

司馬遼太郎「八人との対話」

山本七平・大江健三郎・丸谷才一・立花隆・他
丸谷(天皇の恋歌)立花(宇宙体験/「空海の景色」)
でも、何ていう博覧。


〔読書控〕 1993/9

日本エッセイストクラブ「チェロと旅」

まあ、ひまつぶしによかろう。


〔読書控〕 1993/9

隆慶一郎「死ぬことと見つけたり」 上・下

葉がくれを下敷きにした、なかなかうまい小説。中世人の感情生活。
作者の未完部分のシノプスにフランス語が交じるのはミスマッチのご愛敬。


〔読書控〕 1993/9

渡部昇一「読中独語」

右傾化が問題になる渡部氏であるが、この本で見る限りいちいちごもっとも。ひょっとしてこちらが右傾化したのかも。


〔読書控〕 1993/9

本多勝一「ドイツ民主共和国」

崩壊直後のレポート


〔読書控〕 1993/9

五木寛之「??」

歳をとると軽いユーモアが好ましくなる。
軽みのある紀行


〔読書控〕 1993/9

犬養道子「世界の現場から」

名詞止めの荒い文章。
アフリカ・中東の問題報告。
無縁な日本人の告発


〔読書控〕 1993/9

加賀乙彦「生きている心臓」 上・下

心臓移植・脳死問題
人の争い・信仰
新聞小説としてはうまくできている。


〔読書控〕 1993/10

村上龍「音楽の海岸」

相変わらずの毒。エクスタシー、フィジーの小人等読み続けると同工異曲の感。もうそろそろいいか。


〔読書控〕 1993/10

森毅「ボクの京大時代」

伝説の時代の裏話。もうおもしろくともなんともない。


〔読書控〕 1993/10

ポール・セロー「O=ゾーン 上・下」 村松潔訳 文芸春秋1991/2

近未来SF風
走り読み


〔読書控〕 1993/10

堺屋太一「現在を見る歴史」 プレジデント社 1987

ギリシャ史・中国史と現在の対比。冷戦構造の予言ははずれたが、なかなか大きな目。


〔読書控〕 1993/10

縄田一男(編)「時代小説の楽しみ(5)」新潮社

戦国の英雄達アンソロジー


〔読書控〕 1993/10

城山三郎「秀吉と武吉 -目を上げれば海」

村上武吉伝


〔読書控〕 1993/10

木村敏「時間と自己」中公新書 1982


飛ばし読み。


〔読書控〕 1993/10

津本陽「開国」



〔読書控〕 1993/11

中野孝次「はみだした明日」1985 文芸春秋

生き生きとした文体と内容。魂のこと。
書くことの力。
会社というものの恐ろしさ、ばかばかしさで気が滅入っている時に読んだ。
朝「preparation pour la mort」に思いが走る。
肉体的には死が近くにある予感はかなり親しくなった。
本気じゃないが、しかし、ひよっとすると。とうなずいてしまったりする近さ。
でも今死んではたまらんな。何一つしてないではないか。
死ぬには準備が要る。
突然来るなよ。といっても、来てしまうのかな、という予感。
準備をしなきゃ。
この本は面白かった。文体も平易で、60近い著者の若々しさが輝いている。
とても今からでは自分の文体を作るまでいかない。
準備として何が出来るのか?


〔読書控〕 1993/11

「塩野七生「イタリアからの手紙」s.60 文芸春秋

なんでイタリアか。歴史。感性。マフイア。住みたくもあり。行きたくもなし。


〔読書控〕 1993/111993/11/20(土) 23:14

丸谷才一「山といえば川」文芸評論集

言葉と文学・遠い昔の。書くことから遠ざかった。もう帰りようもない遠い距離。
何か山っ気があって表現しょうとした。表現。


〔読書控〕 1993/11

赤瀬川源平「父が消えた」

金属志向。しこう。
うわ。ことばがおもしろい。
ことば。
てんぽ。りずむ。
いかにも自然というふうに。こんなに面白く書かれてしまう。


〔読書控〕 1993/11

吉村昭「黒船」中央公論1991

幕末の通訳(通辞・通弁)小説
堀達之助(長崎オランダ小通辞)
日本英語学事始め
通訳の悲哀・衆人監視の中のしどろもどろ
「フランス通訳事始め」でも調べようかな。と思う。


〔読書控〕 1993/121993/12/04(土) 23:15

赤瀬川源平「ステレオ日記・二つ目の哲学」 大和書房 1993

裸眼ステレオ視は子供の時から得意だった。寄りめと平行法。タイル壁の奇妙な奥行きを発見した日。


〔読書控〕 1993/12

筒井康隆「ロートレック荘事件」

小手先の芸面白くも何ともない。


〔読書控〕 1993/12

筒井康隆「パプリカ」

魅力的なお話し。書いて遊ぶ虚構の楽しみ。
美女の性交描写がいいな。生理的に快感がある。


〔読書控〕 1993/12

塩野七生「ハンニバル戦記・ローマ人の物語 II」 新潮社 1993

永らく司馬遼太郎他の中国日本の戦記物を楽しんで来たが、古代ローマでここまで楽しめるとはね。


〔読書控〕 1993/121993/12/18(土) 15:09

森本哲郎「ウィーン・世界の都市の物語」 文芸春秋 1992

懐かしいウィーンへのエッセイ・軽い。


〔読書控〕 1993/12

木村健「MINIX 版UNIXプレイイングマニュアル」

パソコン通信体、顔マークいり。


〔読書控〕 1993/12

小田嶋隆「パソコンゲーマーは眠らない」

ほんの少しの毒ともいえないつまらないエッセイ。


〔読書控〕 1993/12

佐々木譲「エトロフ発緊急電」

NHKのドラマはよかった。小説を読むとそうでもない。ま、うまく調べてうまく書いてあるが。でも、面白かった。
戦時下の上海か。いいなあ。日本の軍人を二通りにかき分けているのはなかなかの目配りと言える。通俗小説としては前の「ベルリン飛行指令」のほうが上。


〔読書控〕 1993/12

筒井康隆「原始人」1991

短編集。饒舌。喋るスピードで書いている。自在。
読者を怒らそうと挑発する「読者罵倒」。ここまで書くか。
糞まみれ、裸で町に放り出される子供の恐怖をここまで書くか。
うーむ。

next year