世界のエトス(J. 世界のエトス(J..
[団塊の段階的生活]

世界のエトス(J.ハーヴェィ)の重層構造(3)

2013/5/7(火) 午後 2:52
(3)
ジョナサン・ハーヴェィ オラトリオ 「世界のエトス」 (世界初演)
サイモン・ラトル 指揮 2011.10.15
 
舞台にはベルリンフィルの他、混声合唱団と純白の衣装の児童合唱団。
サイモン・ラトルが二人のオジサンを連れて入場してくる。
一人は朗読者、もう一人はコーラスマスタ(合唱指揮者)。
朗読者はいいとして、時としてラトルとコーラスマスタが二人並んで同時に別のリズムを指揮する光景は見もの。
これも「世界のエトス」の重層構造物のひとつ。
 
最初に導師が古代中国の説話を語りはじめ、思わせぶりに声を潜めた合唱(コロス)が唱和する。
第二楽章にはエジプトの古代の王の統治の話に飛び、まあ、いずれにせよ未来は子供にある、と児童合唱団が締めくくる。
 
書いていることがかなりおざなりだが、そんなもんでいい。
解説によればスイスの神学者何某のテキストを使った現代イギリスでもっとも宗教的なハーヴェィの集大成、とかである。
 
しかし、思わせぶりなのは単なる演出で、音楽には何の関係もない。
作曲者がテキストにインスピレーションを得ているのは確実で、そのテキストに喚起されたイメージが音像化されているのだが、音楽を聞いてその神学者の精神が理解できるというわことではない。
それに、そのテキストも思わせぶりなだけで内容は非常に皮相的なものに見える。
ただ打楽器と人声を多用した音楽が生理的に非常に快い。
作曲者が意図する感覚的な刺激は、絡まりあう世間にいらだたされていた心を快くくすぐってくれた。
自分に合った世界がまだどこか遠くに探せばあるんではないか?
 
ベートーベンの第九を聞き、「全人類は皆兄弟」ということを理解したと言う人は単に調子のいい偽善者だ。
別にベートーベンが偽善者というつもりではないのだが、イスラム原理主義も仏教の世界観も原子力も大震災も視界にない200年前の人の精神と、我々の世界がどのように同期することができるんだろうか?
偽善ではなくて?
 
音楽にそれだけの具体的な意味はない。
作曲者が持ったインスピレーションのソースを聴衆が理解する義務も必要もない。
音楽自身が語る以上のストーリーがどうして必要なんだろうか?
 
歌詞を繰り返して読むのはインスピレーションを受けた作曲者の意図であって、詩の精神を理解し深く同意するためではない。
私の周囲の合唱団構成者にはどうしてもそのあたりの区別がつかない方が多い。
おっと、このあたりを口走ってしまうとまたまずいことになるか。沈黙は金。
常に善意の殻をかぶり、内なる悪意の発信を楽しむどうしょうもない無意識の偽善者たち。
 
指揮者が二人ということでは、おなじイギリス人のチャールズ・ウオルトン「ファルス」が面白かった。
ラトルとソプラノ歌手が登場するのだが、いきなり青いドレスの歌手がオーケストラを指揮し、ラトルがユーモアたっぷりにラップを語る。
ウオルトンの交響曲は私のB級クラシックのコレクションに既存しているのだが、こんなユーモラスな作があったとは知らなかった。
 
イギリスにはいわゆる大作曲家つまり、クラシック標準名曲作家はいない。
この国にはイタリアやドイツのような根っからの職業音楽家は居なかったのである。
音楽なんて下賤の国民がやるものだから、伝統的にはイギリスは他国から音楽家を呼んで演奏させ楽しんだのだ。移民労働者というか。
ベートーベン風のドイツ深刻主義音楽よりシベリウスの抒情的で清冽な「軽い」管弦楽を好んだようだ。
あくまで音楽というのは趣味の領域での話で、そんなものに命をかけるようなものでないのだ。
ブリテン、ボーン・ウィリアムズ、エルガー、ウオルトンというような近代・現代イギリスの作家の作風はどこか共通性を感じる。
決してド深刻、クソ真面目にならない上品な趣味性に留まる自制というか。
あくまで快い管弦の響きを損なわないというか。
 
つまり、J.ハーヴェィの「世界のエトス」はそのような生理的な快感を得る音楽であるわけで、タイトルの「世界のエトス」、つまり交錯する世界の倫理に踏み込んで考える必要は何もない。
 
私がたまたまその日視聴した音楽が「世界のエトス」だったので、タイトルにひっかけてその日の日常を書いただけだったのだが。
 
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無料視聴期間が明日で終了します、というメールが入っていたのだ。
うわぁ、まだまだ面白そうなプログラムがベルリン・フィルデジタルコンサートホールに出ている。
30日では未聞曲の半分も消化できていないのだ。
 
しかたなし。
遂に金持ちだがケチな私がソニー・エンターテインメントの商戦略に負け、その場で月極め購読を契約してしまったのである。
ネット上のクレジットカード払。
 
いや、本当の話は実はここから。
 
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