〔フライブルグ通信〕
[D28] 南シュバルツバルトの町と村(3−2)2011/09/01 ザンクト・メーゲン(St.MAERGEN)
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路線バスでいよいよ鉄道の通っていない黒森の村に分け入るのだ、というような意気込みだったが、しかしこれはなんとも明るい開けた丘陵地の光景が続く。
このあたりは標高5、600メートル位のなだらかな牧草地で深い森に入っていくわけではないのだった。
牛や馬がのんびりと牧草を食んでいて、なんとものどかで明るい高原風景である。 明るく淡い緑色の牧草地が丘陵部分で黒森本来のもみの木の森の濃い緑とモザイク状に混ざっている。 この混ざり具合が南シュバルツバルトの風景の特徴といえるのかもしれない。 | |||
バスは鉄道駅近くでは数箇所の停留所で合図して降りる人を降ろすために停車し、こういう停車場(HALT)は時刻表には載っていないし、アナウンスもない。路線バスに乗るにはこういう無数の数えられない停車も見当に入れておかないと、目的地には降りられない。一種の迷路をすり抜けていくような外国の路線バスの面白み。
もっとも快晴でのどかな路線だからそのように言えるので、雨や夜の路線バスでは降り間違えるのではないかと思うと気が気ではなくなるのだ。店もなにもない集落で間違えて降りてしまうと、次のバスは2時間後。 やがてザンクト・メーゲン着。
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地元のクーアハオスでくれるホッホ・シュバルツバルトの観光地10選くらいにちゃんと名前が挙っている村。
バス停には屋根とベンチがあり主要停車場の格である。
道路に沿って数件のホテルとカフェ(ホテル兼)、中央広場(バス停兼)にラートハオスとその裏側に修道院(修道院博物館兼)。
なだらかな丘陵地にあった修道院を中心に出来てきた集落と思える。
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村の周囲には快晴の南シュバルツバルトの丘陵が広がっている。 丘のそこかしこに点在する農家と休暇宿泊所やちょっとした牧場兼野外施設。 | |||
ひととおり通りに沿って100メートルばかり歩き、修道院の周りを大きくゆっくり診て回るともうそれでサンクト・メーゲンは終了である。 修道院には修道院博物館というのが併設されているが、あまり営業している気配はない。
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本当は牧場やスポーツ・宿泊施設が周辺に点在し、かなり広域な観光地なんだけど、バス+徒歩旅行者ではどこにも散開しようがない。 | |||
それではバス停近くのカフェで一時間強の昼食+ビール休憩といいますか。
生ハム+パンに小ビール。
丁度いい昼食だね。 | |||
このテラスは次の目的地サンクト・ペーターに右折する交差点に位置していて、ひっきりなしにバイクツアラーが走っていく。
このなだらかで広大な丘陵地はバイク天国のようだ。
快晴の日曜日のツーリングか、気持ち良さそう。
ここでムラムラっとバイク借りて私も突っ走ろうか?という気になってくる。 | |||
しかし、フライブルグではあまりたいしたレンタルバイクの情報はない。
無理に慣れないバイクを借りて事故になっては元も子もない。
なんせドイツでは私はすでに事故1回、スピード違反検挙一回の前科があるのだ。
せめてバイク屋と面談できればいいのだが、見つかったインターネットのサイトでは予約ボタンを押さないとバイク屋の所在を教えてもらえない。ならいいよ。
別に無理することはない。もうドイツは2回バイクで走ってるからね。
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コーヒーまで飲み終わりトイレに行って帰ってくると、おりしも10人くらいのツアラーがどやどやとテラスを占拠しに来ているところだった。 私の陣地も陥落しそうである。降伏して席を明け渡す。 いや、一緒に掛けていいか?というような仕草だったが、多勢に無勢。 一瞬、バイク仲間として連中と話しに興じようか、と思ったのだが、そんな自在なドイツ語が操作できるワケはない。 | |||
もうそろそろバスの時間だ。
バス停に三々五々と乗客が集まってきている。
ノルディックウォーキングのストックを持っている人が多い。 こんな広々とした丘陵を歩くのか。 サンクト・ペーターまではバスで15分くらいだが、見かけた看板によるとウォーキングコースとしては4時間という設定になっていた。
ザンクト・ペーター(St.PETER)
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なだらかな丘陵に町らしい集落があり、特徴的な2本のミュンスターの尖塔が見えてくる。 確認するまでもなく、これはザンクト・ペーター。 明るい夕方の光の中に、丘陵の緑を背景に大きな教会の建物が堂々と存在している。
町の規模にくらべると異様に大きい。
だからこれはこの教会・修道院が先ず最初に存在し、それから少しばかりのホテルやレストランが後からできてきた町だろう。 いや、レストラン・ホテル数件ではやはり村というべき規模だろう。 | |||
堂々とした教会のファサードの前に広場があり、ラートハオス(市庁舎)がこじんまりと立っている。
広場からは周囲に広がる丘陵の緑が見え、人々がベンチに座ったり、16時半開場のコンサートの表示をながめつつゆっくり散歩していたする。
ここも圧倒的な老人の王国である。
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このラートハオスの横の通路を出るとホテルとレストランが囲んでいる一角があり、これが本来のマルクトプラッツ(中心広場)だろうが、規模としては教会前広場の比ではない。 | |||
この村の観光スポットは教会とこれだけ。
そろそろ時間らしく教会の扉の前に列ができる。
私もそろそろ列に並んで中に入ることにする。 | |||
そこに拡がっていたのは圧倒的な装飾で囲まれた白と金のきらびやかな空間だった。
バロック・キルヒェとポスターには書かれていた。
バロックですね。 | |||
びっしりと埋め尽くされた過剰なほどの装飾。
圧倒的な装飾ではリヨンのフォルヴォールにあるサンタマリア大聖堂の内陣を思い出すのだが、しかしここではそのようなのしかかってくるような重みはない。
内陣の背景の色調が白をベースにしているからか。 どちらかというと華麗な印象を受ける。 どこか明るく涼しげな感じがある。 | |||
オルガンのメインパイプはファサードの扉の上方。 今日はコンソールは正面に設置されている。 | |||
コンサートはフランス人オルガニストで17世紀の古典と20世紀の現代の作を交互に演奏するという試みだった。
つまりバッハからリスト・フランクにいたる有名どころのオルガンレパートリーを全く外してある。 初めて聞く作者のものばかりだった。 この内陣の雰囲気からは現代ものの方がよりふさわしく感じられた。
オルガニストに助手が二人付いている。 特に現代曲では助手が忙しくレジストレーションストップを操作し譜面をめくる。 時には演奏者と並んでイスに座るという姿勢にもなる。 まるで歌舞伎の黒子のようだ。 演奏終了後、オルガンのコンソールの近くに行き観察する。
内陣背後のメインパイプ群とは別に説教壇左右にサブパイプ群がある。
そのうち、先ほど助手を務めていたこの教会のオルガニスト氏がコンソールのまわりに人を集めて説明を始めたようである。
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10名くらいの人垣に加わる。
実際に音を鳴らして現代のオルガンの仕組みを説明してくれていた。
完全に電子制御のコックピットである。
もちろんドイツ語は完全には聞き取れないのだが、興味のある分野なので大体は分ってしまうのだ。
ジストレーションボタンの役割や、遠いメインパイプ単独の響きと横のサブパイプだけの場合の響きの違いを実際に音をだして実演し、質疑応答も受けていた。 私も現代のオルガンのコックピットを目の当りに見るのは初めてだった。 4段鍵盤を取り囲む数百のレジストレーションストップの列。このような各教会固有のオルガンの特性があるので、助手の存在は不可欠なんでしょう。
マリー・クレール・アランなんかは自分ですべてのストップ操作をしてしまうので有名だが。 この講義は興味深く、第一ドイツ語学習者としては願ってもない実地勉強だった。
日頃の修練のおかげで、オルガニスト氏に「すんません、もう少しゆっくり喋っていただけませんか?」とか言わずに済んだ。
もっともゆっくり喋っても分らん単語・構文が理解できるわけではない。
まあ、どのような説明をしているのかが分り、時々要所が聞き取れる。 パリのドコソコのオルガンは10段鍵盤である、とか。
うん、コンサート自体は実はもう眠たかったのだが、この特別講座は実にありがたかった。
小さな村の教会のオルガン所以だったということか。
ということで、思わぬオマケもいただいてお得感一杯で満足して教会を出る。
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予定していた帰りのバスの時刻は過ぎていたのだが、すぐに来たバスの行き先表示はキルヘンツァールテンだったので、予定を変更してそちらから帰ることにする。
さんざん当地の鉄道を利用したので、もうこの辺の駅の名前はすべて暗記できているのだ。
キルヘンツァールテンが一番近い最寄接続駅。
予定ではフライブルグを大回りして別の路線の鉄道駅に接続するバスで帰るつもりだったが、本日はもうこれでいい。 本日は充分堪能できましたよ。
今回の南シュバルツバルト体験の中でも、すべてうまくいった最良の日だったなぁ。
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満足、満足。 ウチのヨメは会社の夏休みを利用して今頃東北でボランティアをしているらしい。
どうしてるものやら、とふと思うのだが。
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