〔フライブルグ通信〕
[番外6] イエナ・フイルハーモニー定期演奏会にご招待?2011/09/19 9月7日続き
午後七時、本来ならここからイエナ市内観光の予定だったが、もう夜の雰囲気になってしまっている。
もう夏でもないし、南ドイツでもない。
しかし、とりあえず中心街を歩いてみる。
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←カールツアイスのプロネタリウム投影機
ゲーテギャラリーというショッピングモールの中に展示してある。
イエナはカールツアイス創業の地で、その博物館やプロネタリウムがある。
明日見に行ってもいいと思う。
3日間の根拠地と定めた都市だが、イエナはエアフルトやワイマールに比べると町並みが見劣りする。
ただの生活する町があるだけで、観光的集客力はもひとつ。
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私にすれば旧東ドイツ時代のイエナを見たことがあり、それはいかにも閑散として静かで、空虚でもある印象だった。
どちらかといえば当時も観光都市だったワイマールより旧東ドイツにいるんだ、という少し張りつめた高揚を与えられた記憶がある。
しかし、もちろん今、来てみればただの町。
昔はどこであのような印象を受けたのかもう特定はできない。
私はなぜかイエナびいきなのだ。
だから、イエナよ、エアフルトやワイマールに負けないような、何かを見せてくれよ。
ゲーテギャラリーの裏側の通りを急いで歩いて行く人がいる。
何かの集会でもあるのかと、急いでいく先を見るとなかなか風格のある建物があった。
建物の入り口表示をみるとイエナ・フルハーモニー協会である。
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あ、もしかして本日が演奏会か!
人々が急いで入っていく扉の横の掲示板を見る。
イエナフィルの秋のシーズンの初日の定期演奏会で8時開演。
時計を見ると7時55分。
あ、明日だったら行けるのにな、と思う。 今日はマズイよな。
今からだと、10時のホテルの食べ放題レストランの締め切りに間に合わない・・・。
何をいう!
そんなことより、せっかくのイエナフイルの秋のシーズン初日じゃないか。
当日券買ってでも入場しよう、と決意する。
扉を入ると、テーブルが並んだロビーになっていて、今まで客が談笑していた名残がある。
右手の階段が演奏会場。
左手奥に窓口があり、多少の列がある。
当日券窓口に違いない。
30年前にストラスブールフィルの演奏会に当日券で2,3回行ったことがある。
8時に売れ残ったチケットを格安で販売していた。
ここでもそうかな、と数名の行列者の後に並ぶ。
誰か、私の肩をとんとんとたたく者がある。
振り返ると、タキシードを来た紳士がにっこりと笑っている。
イエナの奇跡が起きた。
男は昨日の東ドイツ風しゃべり男で、ここまで私を追ってきたのだ・・・ではない。
今はイエナフィルでチェロを弾いている旧知のxxだった・・・でもない。
男は「英語喋れますか?」という。
「少しなら」と答えると満足して説明を始める。
「当日券で演奏会を聞きたいのですか?」
「もちろん」
「では、この・・(と示し)ご婦人方についていけば無料で会場に入れますよ。」
「えっ?」
みれば老婦人が二人笑いながら立っている。
チケットが余って誰かにあげようと先ほどからロビーで相手を探していた風である。
そこに表でポスターをしげしげ眺めていた私が、入ってくるなり当日券窓口に並んだので標的にしたようだ。
外国人である、そこで近くにいた英語を喋れる紳士に仲介を頼んだようだ。
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そこで老婦人二人に囲まれて、螺旋階段をあがり演奏会会場に。
入り口の切符もぎり係りに、婦人は切符らしきものをみせ「三人で」といっている。
個別の切符ではなく、そのような団体チケットのようなものなのかもしれない。
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コンサートホールではなく、オペラ座風の造りで客席は平土間席の上に左右に2階席がせり出している。
御婦人二人についていき、この辺でと手で指示された席に座る。
見ればこの周辺の席の客は皆顔見知りで互いに挨拶をしている。
私の両側の方も知り合いらしく、右の男は私を友人のように肩をたたいて横に座らせる。
私はドイツ語ができず、周囲の皆さんは英語ができないという前提になっている。
イエナ・フィルハーモニーの演奏会を聞く。
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私は思いがけず、ドイツの地方都市のオーケストラの定演に招待された形になった。
イエナは何事かをこのような形で私に言いたかったのか。
オーケストラは現代曲のピース、ブルッフのバイオリンコンチェルト、ブラームス交響曲第二という定番のプログラムで、指揮者ははっきりした陰影をつけた演奏が得意のようだ。
最初の現代曲が一番面白かったが、バイオリンのソロリストも美人で人気のようで、すごい拍手があり、4回目のカーテンコールでソロでバッハの無伴奏組曲のジーグを弾いた。
休憩後のブラームスではさすがに私は眠たくなってしまったのだが、それでも終演後は非常な拍手喝采。
足で床をふみならすオーケストラ団員仕様の拍手をする者も多数あり、秋の音楽シーズン開幕第一日という祝祭的雰囲気というかお祝儀的拍手喝采大盤篩い的雰囲気だった。
思いもかけない面白い体験に招待してくれたご婦人がたに挨拶をし、地元オーケストラの初日を聞いてきた人々に混じりイエナの夜を帰る。
無料でなくとも、私は当日券を購入して聞くつもりだった。
無理やり招待されてしまって休憩時間等、ちょいと周囲の「招待者」達に気兼ねをしたりするハメにはなったのだが、それでもこの思いもかけない地元の方との交流体験は、イエナを宿泊基地にした意義を充分満たしてくれたし、旧社会主義国風システムの迷路の中の心理的消耗をここで完全に払拭してくれた。
今日一日でなんと多くの旧東ドイツの人々の素朴な善意とでもいうようなものに遭遇したことか。
しかし、ホテルに帰ると夕食はもちろんもう無かった。
ビールを部屋に持って帰りがけに朝食用のパンを一個パクって部屋で食う。
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