ウチでは夏はドイツに行くと決まっている。
ちなみに冬はフランスで。
・・というわけでもないが、とにかく今年の夏はドイツと決めなければ前に進まない。
私は冬にフランスに行ったが、今年はヨメの海外旅行予定年度でもある。
早めに準備するに越したことはない。
(1) 5月の初期値
私がドイツのどこかの学校に行き、終了後ヨメと合流して旅行して帰る。
とか、想定して適当なシナリオを作ろうとしていた。
しかし、ヨメの都合に合わせると私が潜りこめる大学の夏季講座の選択肢がかなり限定されてしまう。
飛行機の都合も、帰りだけ同じ便だとかなり限定した日程になるので、最安値を確保するのはむつかしい。
この時点でHIS、JTB、キテイ不埒なカードコンシェルジュ、ネット格安航空券取扱い各社に主としてヨメが問い合わせ、航空券の相場がヨメ2週間弱20万、私1.5ヶ月30万弱だった。
ばかばかしい。無理だね。
だいたい、私が大学の夏季講座に参加するのは宿泊費が安くつくというのが最大の理由だ。
そうでなければ誰が夏のハイシーズンに飛行機で旅行するかい。
そうするうちに、私の鬱が今度は旅行計画の煩雑さに対しても粗暴な挙動を取るような傾向も見え始める。
私は間歇性暴発型噴出鬱症なのだ。
時折なにもかもイヤになって、人生そのものを完全にリセットしてしまおうという暴力的衝動に襲われる。
5月の鬱対策として、とにかく「夏はドイツに」と決めていたのに、これじゃぁ藪蛇だ。
ヨメとの合流計画はそもそも話を複雑化させてしまう。
では、私の夏季留学とヨメとの旅行は別枠で。
ノルウェーは一度行ったけど、ベルゲン回りでそっちのフィヨルド巡りは?
別に旅行はヨーロッパでなくてもいいわけで。
どこか行ってないところ?
ヒマラヤ山脈でも見に行くとか?
そだね。
夏にドイツに行く必然性も別にないのだが、しかし私には別の焦りもある。
ドイツ語も今年くらいで決着をつけねば、もう後がない。
実はこの冬、フランスで私のフランス語がほとんど実用の域から転落しようとしていることに気が付き、衝撃を受けたのだ。
思えばメンテナンスを長い間してなかった。
もうフランス語はいいだろう。ドイツ語をやろう。
と数年前に方向転換してからフランス2のニュースも見なくなっていたのだった。
その割には別にドイツ語を勉強していたわけでもない。
つまり、もう学習しようという内的エネルギーが尽きかけてるらしいのである。
今年でドイツ語は最後にして、後は嘗ての商売道具フランス語をせめて忘れないようにメンテナンスするしかない。
そういう能力減退の自覚が男性には老人性鬱の原因になってしまうようだ。
見栄で固めた自尊のひ弱な心。
やはり、体力的に可能なうちにドイツの大学の語学夏季講座に参加しておかないと。
このあたりでヨメが苦渋の決断をしてくれる。
「やはり今年はワタシは旅行に行かないでバイクにする。アナタはドイツに一人で行って来たら?」
「家のことはワタシが何とかやりくりするようにするから。」
うむ。わが配偶者ながら、いいヨメだねぇ。(ヨーイショ!)
その前にかなりイヤミを言ったのは事実だが(^^;
あまり簡単にヨメが「ドイツに行って来たら?」というので、重要な指摘をしておいたのだ。
ひと月以上も家を空けるのは簡単じゃない。
冷蔵庫の中身の処理、月々の支払や郵便物の処置とか、自治会の役員業務だとか。
キミは夫が不在になって自分の時間が増えると思っているのかもしれないが、実は全く逆で夫が不在なだけ余計に家に縛り付けられてしまう結果になるんだぞ。
まあ、ウチはヨメが現役サラリーマンで私が家事担当という事情があるのだが。
前回2011年のフライブルグ大学夏季講座に参加したときには、ほとんどの留学生が常にSkype等で家族と連絡を密にしているのを目撃した。
そのような連絡手段の整備にしても、ヨメはあまりに無関心でありすぎる。
実を言うとウチのおヨメちゃんは会社では情報処理部門を担当していたりするのにだ。
今回は私が本式に鬱フェーズに入ったと見極めたのか、ヨメは覚悟を決め、私をひと夏家事から解放してくれるようだ。
本当を言うと別に大した家事仕事をしているわけではない。
自分の生活をしているだけなのだが、それでも小社会の係累もあり、なにもかも煩わしくなってしまう。
私は極短期海外留学が趣味のようになってしまったのだが、それは人生を暴力的にリセットしてしまおうという、鬱的自己破滅衝動を抑止するワクチンのようなものだ。
少しの間だけ別の人生にシフトする疑似罹患を介し、このどうしょうもないバカげた飽き飽きする人生を少しだけ抜け出し初期値に返してやるのである。
|