曇天の重さ ノイシュタットの週末(1)
[ストラスブール通信シーズン2]

ドイツに歩いて行ってしまう

2013/03/01
2・27(水)午後
サンドイッチを持ち込み本日も午後自習室。
しかし午前分のブログ記事をアップすると、眠くなって勉学気分にならず。
適当に切り上げ、散歩に行くことにする。
今日は異様に寒く、一旦宿舎に帰りもう一枚着込み、手袋も装着、万全防寒対策をして出る。
で、時間を見るともう4時半になっている。
これじゃぁ日没までに決着がつかないかもしれん。
大通りの向かい側の住宅地を突き抜けると、その向こうにはライン川があるはず。
だから、何となくそちらの方向に行ってしまうんだろうな・・・
 
郊外型住宅地。
街路樹や小公園の木々の背が高く、家並みが木に埋れているように見える。
標準的なヨーロッパの住宅地の光景。
普通に豊かである。 
だが、整備された街区を抜けると次第に庭のない密集住宅や、コンクリート丸出しのHLM(低賃金アパート)も目に付きだす。
 
ライン川流域原沼沢地という元来の素性がもう隠しきれない、だだっ広いだけのグラウンドとか、ただの広っぱが次第にのしてくる。
 
 
トラムもバスも近くに通っていない地区lになり、安っぽい貧相な兵舎のような低級住宅地団地を発見。 
宿舎のテレビでとりあえずニュースは見るのだが、ニュース以外大した番組はない。
映画とサッカーの他はクイズのような喋り系ばかり。
日本の民放と似たり寄ったりだが、食い物系番組はなさそうだ。
 
そのかわり住宅番組がやたら多い。
日本のヤツは低級住宅をいかにリフォームしたかを見せるのだが、こちらのは明らかにスノッブなお住まい拝見、もしくは見せびらかし番組。
 
住宅階級社会。

郊外から市域外に歩いていくと普段は見えないものが見えたりする。
実は見えているのだが、見たくもないので見えないのだ。
 
民間飛行場(アエロドローム)の周辺では忘れられ、見捨てられたようなチンケな家並みもある。
 
通常のバス路線からは見えないストラスブール。
観光的には面白くも何ともないが、根が大阪のド下町出身の私には、すこし安心させられる光景でもある。
都会の貧民窟ではなく、郊外の低級住宅地。
今朝、ハローワークの失業者を見ていた目がまだ続いている。
飛行場を過ぎるとそろそろライン川の岸辺の森の気配が見え隠れする。
 
しかし、道は一筋縄ではなく、なかなかそちらに到達する気配がない。
 
そろそろ引き返すか?と思った時フランス国鉄の線路が見えた。
ドイツのケール市に向かう路線。

これで何となく見覚えがあるような地帯になる。
 
もう何度ケール市に行ったことだろう。

昔、鉄道やバス、それに自転車でストラスブールからケールまでよく行ったものだ。
フランスとドイツを往復するということは、国境という概念がない日本の私にはなんとも不思議で、奇妙な高揚感さえ覚える体験だった。
フランスとドイツの間ということは、ヨーロッパのど真ん中ということだ。
それは、つまりは大阪のド下町の対極の世界ということだったのだ。
 
だからヨーロッパにもある大阪下町のような光景なんて見る意味はない。

ヨーロッパへの憧れという一方的な美化と昇華のフィルター。
 
そのような盲目的な片思いが、どうしょうもなく不安定だった私の来し方を、裏からずっと支え続けていた。
だから未にこうして、こんなところを歩いているのだ。

ドイツのケール市に向かう道路に合流。
交差点の遠方はるかに今回初めてのストラスブール大聖堂の影。
 
もう日暮れに近い。
この辺から中心街へ方向転換するのが安全だが。
 [ケール市→あっち]
 [ヨーロッパ大橋]
の指示標を見てしまってはもう引き返せない。
 
ドイツまで歩いて行く。
 
いいかげんにせんかい!
老人になったので、無理のないゆとりの旅行といきたかったのだが(苦笑) 
しかし、ここからが遠かった。
 
あ、やっとライン川!
と思ったら、ライン川からの引き込み運河。
 
地図上の直線距離はたいしたことはないのだが、道路が大きく迂回している。
 
果たして歩いてドイツにいけるのか?
 
 
考えてみると、旅行中は当然バス・鉄道でライン川まで来たのだし、30年前の居住中なら自転車で走っていたのである。
  
「家」から歩いてドイツは無い。
これは新記録達成かも知れん(^^;

やっとヨーロッパ大橋に到着。こちらフランス、あちらドイツ。
 
昔はここに国境・税関があった。
下の公園からもう一つ向こうに歩行者用の橋が出来たので、この幹線道路を通すヨーロッパ大橋を歩いて渡る人はあまりいない。
 
 
 
これで私はまごうことなく、フランスとドイツの間、ど真ん中にいるのである。
 
といっても、国境も税関もないヨーロッパ共同体の時代である。
悦に入って橋の上から写真を撮る人はいない。
 
しかし、私にとってはこの地理上の特異点が人生のキーポイントだったし、実際にもターニングポイントだったのだ。 

こちらがドイツのケール市。
 
やはりこっちの方がよく整備されている。
 
フランス側はストラスブール市の郊外の外れだが、ケール市はここが市街地である。
 
この大きなホテル・レストラン
は以前にはなかった。
 
建物の上から見えている教会の尖塔は以前からあったランドマーク。
 
ヨーロッパ大橋のたもとにある中層ビルも昔からあったのだが、随分古きたなくなっていた。
ケール市のマルクト・プラッツ。
 
なんだか今回初めて夜の町に来たような気がする。
 
正面右は昔からあるデパート。
 
その下に公衆トイレが見えている。
 
昔は一度もそのような不細工なマネはしなかたのだが、今は随分軟弱になっている。
50セント入れて先ずトイレ。 
 
それから悩んだが、やはり「家」で食べることにして公園角の Kochloffel でコーヒーだけ。
 
ここはドイツなのでミルク(ザーネ)が付いてくる。
しかも2つ。
 
 
ストラスブール市バス21番に乗ろうと公園裏まで歩く途中で、大変なことを思い出した。
 
今回の旅行に出かけるとき、いったん玄関のドアを出たのだが、手袋ももって行ったほうがいいだろうと、バイク用ではない普通の軽い皮手袋をとりに引き返した。
 
本日寒かったので、公園を横切りながらその手袋をはめた。
 
   ・・・・・
 
そしたら、突然思い出したのだ。
 
この手袋は実は30年前に今現に前を通っているこのデパートで買ったのだった。
 
なんと・・・・
物持ちのいいことか(^^;

曇天の重さ blog upload: 2013/3/1(金) 午前 11:25ノイシュタットの週末(1)