大西巨人「神聖喜 どうしてこうもニ..
[団塊の段階的生活]

どうしてこうもニセモノばかりが(1)

2014/3/20(木) 午後 4:01
(1)フランス語のカナ書き
 
私がフランス語の通訳をしている(いた)ことを知ってか知らずか、さる知人から間接的にフランス語の歌詞を翻訳してくれとの依頼を受けた。
もちろん、タダでという含みである。
本当に翻訳料を支払うつもりなら間接的にヨメを通じて頼むことはないだろう。
やれやれ。

フランス語の通訳者なので歌詞の翻訳もできるだろうというノリか?
どんな目的でどのような状況で必要な翻訳なのか何もわからない。
もしかしたら、「フランス語できる人知ってるから、頼んでみるわ」というような軽いノリなのかもしれない。
大変あつかましい、失礼な依頼という他はないのだが、ヨメの周辺の世間ではよくある話である。
「税理士知ってるので頼んでみる」とはヨメがよくいうセリフだった。
 
「世間付き合いの範囲」で適当に仕上げる他はないのだが、もちろんそんないい加減な翻訳の質に関して私に責任など持たされても困る。
翻訳物には私の名前は絶対に出さないで欲しい、と念押しする他はない。
しかし知人はやはり私の仕事と思うのだろう。
実に救いのない世間の構造であることよ。
 
自分の名を出さないで欲しい・・。
偽ベートベン事件のゴーストライター新垣隆氏の擁護文で伊東氏が作曲の「実施」で調性のある曲を書いたとしても、本人は自分の名を冠して発表することはない、と実にクリアな説明をしていたのを思い出す。
実世界に生きている以上、商業的な理由、あるいは単に世間付き合いで自分の意のままにならない作を「実施」せざるを得ない時もある。
この実施は exercise と訳していいと思う。
しかし、それを自分の目いっぱいの実力ととられては立つ瀬がない。
 
「これ、フランス語でなんていうの?」とかの軽いノリに対して通訳料よこせとは言えない。
簡単にできることではない、と言えば「本当はフランス語できないんじゃないの?」とか言われるのかも。
どうして簡単に物事を依頼する方がいるのかねぇ?
 
とかまた鬱鬱としていたら、実際に依頼してきたのは「フランス語の歌詞の発音をカナ書きして欲しい」ということだった。
これなら話は簡単。

 
    そんなこと私にはできない。   以上。
 
しかし、なんと仲介したヨメは引き受けて歌詞を持ち帰ってしまっていたのだ。
いったん引き受けた以上意をつくして何故カナ書きできないのか説明しなければならない。
 
一義的には出来ない理由を言うのは簡単だ。
フランス語には非常に多くの日本語にはない音があるのでカナ書きの発音ではもうフランス語にはならないからである。

ドイツ語やイタリア語、ハングルであればもう少しカナで近似できるような気がするが、フランス語となると母音の数が違うので絶対にできない。
半母音も数えると16という説もあり、とても「アイウエオ」の5種しかない日本語での標記は不可能だ。
 
ずっと昔、ストラスブール市役所の窓口で「トロワ・ウール、トロワ・ウール」とカナ書きで絶叫していた日本の方がいたことを思い出した。
日本人の私には「trois heurs(三時間)」に他ならないと分かったのだが、フランス人担当者にはさっぱり何を言ってるのかわからない。
 
最近ブログにも書いた「ドゥ・ボン・クーフー」なんかは日本人の私でも何が言いたいのかまったく理解できなかった。
最終的に「私は三流の人間です」という意味に他ならないことが分かったのだが。
 
ドイツ語やイタリア語はカナで近似できないことはない、と書いたが当然本物にはならない。
007が日本に来て「Ohayo Gossaimasu」とかまったくおかしな発音とアクセントで言う場面がある。日本人役者サンが「日本語お上手ですね」と応えるわけだ。
ああ、さすがは007、日本語だって喋るれるのだ!
と感心するのは日本人以外のかなり軽薄な層である。
 
いや、私だって外国で「KONITIWA!」と言われると、「え?日本語知ってらっしゃるんですか?」とお愛想で応えてあげている。
私の回答はもちろんその国の言語でなされているわけだ。
たわいもない一種の外国語遊び、よく言って相手の国への外交的配慮である。
そんなことで本当にこの人は日本語が喋れるんだなんて絶対に思うことはない。
 
では、仮にフランス語の歌詞がカナで近似できたとして、一体それが何の役に立つのか?
「OHAYO GOSSAIMASU」や「KONITIWA!」なら笑って済ませていい。
フランス語の歌詞をカナ発音で歌うという意義がまったく理解できない。
もしかして「ド・ボン・クーフー」と発音し、さすがフランス語、なんて優雅な響きなんでしょうか!と感心してみたいとか?その類の?
 
「フランス語の歌をカナ発音で歌いたい」ご本人はどのような意図をお持ちなのか?
もちろんフランス人に聞かせるためではなかろう。
外交的配慮ならボンジュール!一言で十分。
それ以上続けると国語に対する侮辱に他ならなくなる。
 
日本人に聞かせるためか?
そうだとすると相手も別に間違いだとは分からないのだが、でもお互いにわからないのになんでフランス語で歌おうというのか。
日本語の歌詞なら私の家にあるシャンソン曲集をコピーして差し上げますよ。
 
いや、ただ単に自分の楽しみのためなのか?
ああ、私はフランス語で歌をうたっているんだ・・と高揚するとでも?
 
それはもちろんフランス語とは何の関係もない。
自分の内なる、あまりホメたものではない虚栄を満足させるだけ。
決して他人に依頼して塩梅するとか大ぴらにできるモンじゃありませんよ。
 
ご当人の意図は分からないのだが、看板に間違えたフランス語を大書し、悦に入っているような風潮に加担する気は毛頭ありませんからね。
 
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