コルマールには2つ見なければならないものがある。
ひとつはウンターリンデン美術館のグリューネバルトのイーゼンハイム祭壇画。
この絵については一度私のホームページの記事にしたことがある。
何年ぶりだろうか。是非もう一度確認したい。
それとプチ・ベニス(^^;
実はそんなアダナがある所があるとは知らなかったのだ。
ウチのヨメがフランスに行くならプチ・ベニスがいい、とどこかの大学の観光政策科のセンセが言ってたというのだ。
そんなところ知らんけど?と答えたが、インターネットで調べてみると、どうやらコルマールにソレがあるようだ。では、実地見学しなければなるまい。
快晴のコルマール旧市街。

ストラスブールよりこじんまりとして、のどかである。
しかし、住むとなれば退屈するのでは、と思ったりする。
どうも「住む」という目で町を見始めているのか。

やがて昔の修道院の建物を使用したウンターリンデン美術館に到着。

10ユーロで入館すると、音声ガイドのヘッドフォーンは無料。
「日本語バージョンはないんですか?」と、分かっているのだが聞く。
「申し訳ないですがありません。」
「ではフランス語のを」
「すみませんねぇ」。
これで恩を売っておくと、あとのコミュニケーションがこちらに有利になるのである(^^)。

おりしも、目的のイーゼンハイムの祭壇画の特別展を開催中である。
カールスルーエとベルリンの美術館との共催で、常設の祭壇画の他、グリューネバルトのデッサンと祭壇画の研究展示がある。
祭壇画と書いたがRatableといって厨子の扉絵とでもいうものだ。
普段は畳まれていて、特別な折に例の聖アントニウスの誘惑の絵が裏から現れてくるのである。

とにかく、中世から前近代の宗教画。非常に色彩の保存状態がよく、今でも中世の赤と緑が目に染み込む。
中世の赤と緑。現在の蛍光色ではなく、どこかくすんだ寒色系の色相である。

何の衒いもなく、ただ聖者の物語を中世的写実で描かれているのだが、この中世的恍惚は今から見るとシュールな感覚とでも言うほかはない。

グリューネバルトや同時代の宗教画の、この直線的誇張に至る激情に触れるとき、中世人の真摯な魂のあり方が、私のふやけきった魂をも後ろから射すくめてしまう。
ウンターリンデン美術館を出ると、真冬にしてはとんでもない快晴のくっきりした陽射しに、楽しいアルザス風の家並みが踊っている。

それではプチ・ベニスとやらを見に行こう。

途中、ブーランジェリーの張り出し屋台で「Beignet pomme」を買って歩き食いする。
まあ、日本で言うアンドーナツですね。私はドーナツが好きで^^

この辺がプチ・ベニス。
なんてことはない、狭い一角である。
これみよがしに川舟も2隻ほど係留されていて、少しの観光的媚を浮かべている。

しかし、プチ・ベニスというほどでもないだろうが。
というところだ。

コルマールでは昔通訳のアルバイトで一週間ほどホテル暮らしをしたこもある。
しかし、それがどこであったか判然としない。
駅前のホテル「ブリストル」は覚えている。

そこから車で左に入ったのだ。もしかしたら駅の裏側だったのかも知れない。
アルザス成城学園中・高の創設交渉の通訳だった。
成城学園がアルザスに分校を作ったのは、永遠の文学青年の趣があった当時の諸我校長の発案だったとか。
校長と二人で地元自治体主催の公式バーティをすっぽかし、宿舎に帰る鉄道車内で辻邦生作品集の装丁に使われていた"ベリー公のいとも豪華なる時祷書"の話をした。
しかしそれ以来私は安サラリーマンの日常で知己を得ず、辻邦生のことを誰とも話したことことはない。
辻邦生も死んで久しく、アルザス成城学園も今はない。

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